「そう……ご、ごめんね、善次さんの事情も考えずに」
わたしはむりに笑顔をつくってそう言いました。思えばわたしも村の人も
だれ一人、彼がどこに住んでいて何をしている人なのかを知りません。
善次さんには街にお家や、もしかしたら…奥さんもいるかもしれないのです。
「ちがう…違うんだよ、奈津子ちゃん。
 僕は、ほんとうに……
 そんな資格のない人間なんだ……」

しばらくすると、善次さんはいきなり
涙を流しはじめたので
わたしはびっくりしてしまいました。

「ねえ、どうしたの……?
 わたしじゃ何の力にもなれないかも
 しれないけど、話してみて……」

「……僕は、あまりにも愚かな過ちを犯してしまったんだよ」

 善次さんはぽつぽつと語りはじめました

僕は、学生のとき 東南アジアへ留学する機会があった。
そこで いろんな悲しい……悲しいできごとに出会ったんだ。
平和な国で暢気に暮らしていた僕が知らない、世界の姿。
どうしてこんなことが行われているんだろう。
どうして僕らは知ろうとしないのだろう。
 帰って来た僕は、それから、平和だと思っていたこの国にも似たようなことがあると
気がついた。一見きらびやかな生活を飾るため、犠牲にされていくものたち……
届く事のない、まずしい人々の声。

 どうすれば悲しみを無くすことができるのだろう?
悩み、道を見失った僕が見いだした光明は−しかし、偽物だったんだ。

人々を救い導き、誰もが幸せになれる世界をつくる。
そんな約束を掲げた偽の救世主を、僕は信じてしまった。
なんて愚かだったんだろう…今ならその行為がいかに馬鹿げたことかよくわかる。
けれど当時の僕は、それこそが唯一の救いの道だと信じていた。


「救世主」の命じるまま、僕は……爆発物を劇場に仕掛けた。


瓦礫の山の中、鮮血に塗れ助けを呼ぶ人たちの声。
罪も無い人達の苦しむ姿に、僕は愕然と立ちすくんだ。

−なんて愚かなことをしてしまったんだろう……

こんなこと、望んでなんかいなかったのに。
僕は、自らの手で世界を傷つけてしまったんじゃないか。
自ら名乗り出る前に、僕は逮捕された

でも、それでよかったんだと思う。
たとえほんの僅かであろうと
この罪が揺らぐ事は許されないから

命をもっても 償えないかも
しれないけれど
それが 僕に出来る
最大の贖罪であるのなら…………

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